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跟着撒花~~~~ 话说就等着明前新书了,还有,填旧坑…… |
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№1 ☆☆☆畅之于2008-07-13 15:57:21留言☆☆☆
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明前的超级粉丝~~~~ 等着明前了新书了…………期盼已久~~~~ 章远、何洛~~~~~~~ |
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№2 ☆☆☆呆瓜于2008-07-13 21:43:18留言☆☆☆
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№4 ☆☆☆章鱼草于2008-12-06 14:27:57留言☆☆☆
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……俺也是这儿的新人……米资格说欢迎茶茶……不过可以说一句……俺是为了茶茶而来的…… |
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№5 ☆☆☆四娘于2008-12-29 12:13:06留言☆☆☆
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№6 ☆☆☆紫雁于2009-03-30 22:01:18留言☆☆☆
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№7 ☆☆☆cc_bhc于2009-10-12 15:06:05留言☆☆☆
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そう言いたいのに、口には出せなかった。広いリビングのソファで、弟や妹をあやしている両親の横で、清居はぶすっと再びテレビを見るようになった。赤ん坊なんてちっともかわいくない。うるさいし、汚すし、母親を独占する。あんなのいなくなればいいのに。 アイドルのコンサート中継を観たのはそのころだ。テレビの中で歌って踊るアイドルと、自分の全てを捧げるみたいに手を伸ばして狂喜するファン。顔を真っ赤にして、届くはずがないのに必死に手を伸ばし、中には泣いている女の人までいた。 大人も泣くんだ……と、その熱狂ぶりはちょっと引いてしまうほどだった。 なんだか怖いなと思いながらも、あんな風に求められたら嬉しいだろうとも思った。 自分の目線ひとつ、手の振りひとつで一喜一憂する誰かがいる。それは理屈抜きに『いい気分』だろう。虫みたいな赤ん坊にかかりきりの両親を横目にそう感じ、その年のクラス文集に『大人になったらアイドルになりたい』と書いた。 平良は典型的なファン体質の男で、それも重症の部類だった。 清居がクラスを好き勝手にしめていたときも、くだらない妬ねたみで嫌がらせをされていたときも、平良だけは変わらなかった。あのおとなしい男が城しろ田たに殴りかかったとき、宗教にハマるやつってこんな感じなんだろうかと怖くなると同時に、自分のために目を血走らせている男の姿に、昔観たアイドルに手を伸ばすファンのぶっ飛んだ表情を思い出した。 子供のころ強烈に求めたものを、完璧な形で差し出してきたのが平良だった。 あの事件を境に、平良は清居の中で印象を変えた。 ふたりきりの音楽室や放課後の教室で、平良は一眼レフを構えて自分を撮った。清居をキングと言い、最後の一兵卒になっても守るとかアイタタなことを言っていた。こいつの脳内はどうなっているんだとドン引きしつつ、神を崇あがめるような目で見られるのは快感だった。 三年になってクラスがわかれても、廊下ですれ違うとき、平良の視線を感じるといい気分になれた。あいつは自分だけを欲している。もっと見ろ。俺を見ろ。まっすぐで強い平良の視線は、いつの間にか清居の深い部分にまで食い込んでいた。 ──高校を卒業しても、会ってやってもいい。 卒業式の日、それを伝えようと思ったが、いざ平良を前にすると言えなかった。元々そういうことを口に出すのが苦手な性格で、しかも相手は平良だ。どうして自分からそんなことを言ってやらねばいけないのか。平良のほうからお願いしてくるのが筋だろう。 ──俺になにか言うことないの? こっちから水を向けてやったのに、それでも言わない。 グズな男にいらいらして、その勢いでキスまでしてやった。 あのときは自分でも驚いた。平良にキスをしたという事実だけでもパニックになりそうだったのに、ファーストキスだったのだ。女ではないから大層な夢などまったく持っていなかったが、それでも、この先なにかの折に思い出すであろう初めてのキスが平良だという事実は清居を絶望させた。あれが自分の……という後悔に襲われてももう取り返しがつかない。 しかしこれだけしてやったらわかるだろう。わからずとも、卒業ごときで平良が自分を追うのをやめるとは思えなかった。ストーカーみたいにしつこく追い回してくると信じていた。 だからずっと、当たり前のように平良からの連絡を待っていたのだ。 なのになんの音おと沙さ汰たもない。同じ東京にいるのにそのまま一ヶ月がすぎ、待ちきれず自分からメールをすると宛先不明で戻ってきた。アドレスを変えたのかとムカついた勢いで電話をすれば、現在使われていませんとアナウンスが流れた。 ショックで茫ぼう然ぜんとした。連絡がなくても、こっちからかければすぐにつながるという安心感があった。それが連絡手段が断たれた途端、切羽詰まった焦りがこみ上げてきた。それはやがてじわじわと怒りに変わっていった。 あんな唯一無二みたいな目で自分を見つめていたくせに。 だからこそ、あんな冴えない男に会ってやってもいいと思ったのに。 同級生に聞けば連絡先はわかるかもしれない。でもそこまでするのはプライドが許さなかった。追うのはいつも平良の役割で、自分はそれを受け止めるだけだった。だから少しショックを受けているだけで、別にそれほど会いたかったわけじゃない。 そう思っても、平良への怒りはおさまらなかった。忘れたい気持ちとは裏腹に、どこかで偶然会っても絶対に無視してやろう、いや、めちゃくちゃに罵ののしってやろうと、街を歩いていてもいつも平良に似た男を探すようになった。 平良のことをのぞけば、生活は順調だった。大学に通いながら芸能事務所に所属して、モデル八割、テレビ二割くらいで仕事を振ってもらっている。アイドルになりたいとはもう思っていないが、人から見られたい、求められたいという欲求は変わらず心にこびりついていて、そういう意味でこの仕事はうってつけだった。街を歩いていても視線を感じるし、もっとダイレクトなのは舞台だ。何百もの目が一斉に自分を見つめる。あれはハマる。 なのに、心のどこかで物足りなさを感じていた。もっと熱があって、もっと全身全霊で、捨て身の愛情を感じられる目を自分はすでに知っている。 そういう自分にいらいらした。平良は自分を切ったのだ。そんな男にもう一度会いたいのか。もう二度と会いたくないのか、自分がどうしたいのかわからない。 そんなとき、思いもよらぬルートから平良の近況を知った。知り合いの劇団の飲み会に参加したとき、ライターの佐さ藤とうという男と裏方の小こ山やまという男の会話が耳に入ってきた。 「へえ、弟、ついに彼氏できたのか。よかったじゃん」 「さらっと彼氏とか言うな。男だぞ。男。男同士」 「この業界、別に珍しくねえしなあ」 「そうだけど……自分の弟がと思うと複雑なんだよ」 溜ため息いきをつく小山に、まあそうだろうなと清居も内心で同意した。 他人の話なら冷静に聞けても、身内から同性愛者だと告白されたら大方の人間は戸惑う。あとは属する世界でも感覚の差があって、清居も仕事方面ではゲイであることをかくさないが、大学や家ではバレないよう気を遣っている。 中学生のころから、清居にはうっすらとした自覚があった。テレビを観ていても女よりも男のタレントや俳優に興味を惹かれるほうが多かった。見た目に恵まれたおかげで女には死ぬほどモテたし、それが余計に自分の性質を強く自覚させたように思う。 平良はどうだったんだろう。 清居だけが特別で、それ以外は男も女も同じだと言っていた。まだ高校生で、身近で自分と同種かそれに近い男と出会ったのも初めてなら、自分を恋愛の対象にする男に会ったのも初めてだった。自分を使って□□までしたと聞いたときはさすがに引いたけど、 ──こいつ、俺とやりたいのか? 想像すると、十代の男なら当然の単純な興奮が湧き上がった。 あれは多分、ちょっとした好奇心がきっかけだった。試すみたいに自分から平良に手を差し出すと、平良はひざまずき、うっとりと自分の手にくちづけた。その姿は、やはり清居をたまらなく『いい気分』にさせた。見下ろす側と見下ろされる側。立ち位置は違っても、あのとき自分たちは似たような感覚の中にいたと思う。 だからすっかり安心していた。平良は自分に夢中だから、勝手に犬みたいに追いかけてくると信じていた。自分がうぬぼれ屋だとは思わない。あんなに好きだ好きだと言われ続けて、いい気にならないやつがいたらお目にかかりたい。 結果から言えば恥ずかしすぎる勘違いだったわけだが、余波は今も続いている。 現在、清居の恋愛方面は絶賛停滞中だ。芸能界という場所柄、女だけでなく結構な率で男からも口説かれる。中にはそこそこ有名な役者やモデルもいて、それなりに好感を持った男とふたりきりで会っても、口説きが佳境に入るとなぜか平良のあの目がよぎる。目の前の男と、平良のあの目を比べてしまう。そして気持ちが盛り下がり、キスひとつせず終わる。 一体なんなんだ。 どこまで忌いま々いましい男なんだ。 この調子で自分は恋もせず、平良とのファーストキスを更新できないまま成人するのか。この俺がなぜそんな目に遭わなければいけないのか。最悪すぎる。それが全部平良のせいに思えて、怒りは消えるどころか増すばかりだった。 「彼氏、平良とか言ったかなあ。大学の同級生で、俺と同じ吃音持ちなんだって」 鬱うつ々うつと考える中、いきなり飛び出したその名前に清居は我に返った。 思わずそちらを見てしまい、小山と佐藤が話すのを止めた。 「ああ、悪い。清居くん、こういう話だめな人?」 「いや、そうじゃなくて──」 平良? 吃音? それは自分の知っている平良のことだろうか。 「俺もそっちなんで、ちょっと気になっちゃって」 「そっち?」 「あー……、俺も女だめなんで」 ふたりはわずかに目を見開いた。 「ああ、そうなんだ。ごめん、こんな話して無神経だったね」 「気にしないでください。俺も家族にはカミングアウトしてないから、身内の反応って正直気になるところなんですよ。弟さん、誰かとつきあってるんですか?」 さりげなく問うと、ふたりはこちらに席をよせてきた。 「清居くん、いくつだっけ」 「十九です」 「うちの弟と同じだ」 小山はすがるような目を向けてきた。 「相手の男も同い年でさ、やっぱ十九くらいって夢中になるよな?」 「さあ、相手によると思うけど」 「お互い初めて同士みたいなんだよ。弟はいいやつだって言うんだけど俺は心配でさ」 「おまえは過保護なんだよ。相手の男まあまあカッコいいんだろう。あきらめろ」 恰好いい? だったら平良ではない。 「写メとかないんですか」 水を向けると、小山は「あるある」と携帯を取り出した。 「教えろってしつこく言って写真転送させたんだよ。ああ、これこれ」 胸のざわつきをおさえて画面をのぞき込んだ。まさか平良ではないだろう。そんな偶然があってたまるかという気持ちで──。しかしそこに写っているのはまぎれもなく平良で、清居は固まった。隣に小山と面差しの似た男が写っている。 「こっちが俺の弟で、隣がその彼氏」 清居は食い入るように画面を見た。ありふれた居酒屋を背景にして、仲良く並んでいる平良と小山の弟。平良は笑っている。そのことがまず信じられなかった。高校時代、清居に向けては小さく笑うときもあったが、それ以外では表情に乏しく暗かった。 それになんだ、この隣の地味な男は。きもうざの平良とはお似合いだが、この男のせいで自分との連絡を絶ったのかと思うと納得できなかった。自分のどこがこの男に劣るんだ。 「まあ、年齢の割に味があるのは認めるよ」 小山が言い、「は?」と清居は怪訝な顔をした。 「相手の男。流行りのイケメンじゃないけど独特の雰囲気があるっていうか。こういうのは俳優顔っていうんだよ。ぼうっとしてるけど、本気出すとガラッと変わるというか」 おまえに平良のなにがわかる。反射的にこみ上げた腹立ちを、清居は慌てて吞み込んだ。 「ちょっと褒めすぎじゃないですかね」 不愉快さが顔に出ないよう、なんとか平静を装った。小山はそうかなあと反対隣の看板女優に「ねえ、この左側の男の子どう思う?」と携帯を見せた。 「あ、いい顔してるじゃない。服とか髪型ださださだけど目に迫力ある。こういう顔した子って役に入った途端化けるのよね。なに、入団希望?」 「どれどれ、あー、ほんとだ。いいね。ださいのもそれはそれで雰囲気になってる」
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№8 ☆☆☆==|491047a1于2021-12-05 21:02:06留言☆☆☆
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みんなの話を聞きながら、勢いを増すばかりの怒りを必死でこらえていた。舞台関係の人間ばかりなので、視点が普通とは違うのだ。そいつはただのきもうざだ。 「おまえ、弟の心配してんのか、彼氏自慢してんのかどっちだよ」 佐藤のツッコミに、小山があっという顔をした。兄として複雑な心境なんだとぼやくのを聞きながら、清居は自分でも思いがけないことを言っていた。 「一回会ってみたらどうですか」 「え?」 「来月、研修生の舞台やるじゃないですか。それに弟と一緒に呼んだらいいんじゃないですかね。想像で悩んでるより、直で会ってみたらすっきりするし」 まるで自分に言っているように思えた。 もう一度会いたい。 もう二度と会いたくない。 真逆の気持ちの真ん中でずっといらいらしていたが、今夜、気持ちの針ははっきり会いたい方向にかたむいた。平良に会いたい。会ってめちゃくちゃに痛めつけてやりたい。以前のどこか甘みのまじった微妙な気持ちとは違う。はっきりとした悪意だった。 公演の日、自分を見て平良はひどく驚いていた。同じテーブルにいる野暮ったいのが小山の弟だろう。写メではただの地味な男だったが、実際は少し印象が違った。地味なのは変わらないが、小動物系のかわいさみたいなものがあって、自分とはまったくタイプが違う。 舞台のあと、関係者と話しながらさりげなく平良の様子をうかがうが、平良はけっして自分のほうを見ようとはしなかった。相当バツが悪いらしい。そりゃあそうだろうと心の中で吐き捨て、向こうから話しかけてくるのを待った。 しかし平良は一向にやってくる気配がなく、次第に清居は焦ってきた。もしやこのまま帰ってしまうつもりか。それは困る。なんのためにわざわざ呼んだと思ってるんだ。こっちから話しかけるか。いや、それは負けだ。焦りまくる中、ようやく声がかかった。よし、とほとんど喧嘩腰で近づいていったのだが、平良はうつむいてばかりで清居を見ようとしない。 「清居くん、こっちの子、清居くんのファンだって」 佐藤の言葉に驚いた。平良は自分のことを話していたのか。ファンという控えめな言葉。しかし『いい気分』になどならない。隣にいる小山の弟の、平良を見守るような目がカップル然としていて気に入らない。まるで平良のすべてを知っているかのような──。 「よう、久しぶり」 声をかけると、平良は恐る恐るという感じで顔を上げた。 ようやく目が合った瞬間、平良の目がぐんと温度を上げるのがわかって戸惑った。目元をうっすら赤く染めて自分を見つめる平良の目は、昔と同じ熱っぽさだった。混乱した。そんな目で見るくせに、平良には恋人がいるのだ。 このままでは終われなくて打ち上げに誘うと、平良は即うなずいた。隣で小山の弟がえっという顔で平良を見たが、平良の目は自分に釘付けで、瞬間、勝ったと思った。 色々あったのかもしれないが、やっぱり平良は自分を好きなままだ。 小山の弟には悪いが、あきらめてもらうしかない。 打ち上げではどういじめてやろう。話しかけるにしても、これだけ自分をやきもきさせたのだから、すぐには許してやりたくない。小山の弟もくるかもしれないし、だったら今夜は連絡先だけを交換しておくか。トイレに立ったときにでもさりげなく──。 いい気分でシミュレーションしていたのに、平良はやっぱり打ち上げには行けないと言いにきた。このまま帰ったら、また連絡先がわからないじゃないか。しかしそんなことが言えるはずもなく、そっけない態度で終わらせてしまい、怒りに似た後悔に襲われた。 そのあと、小山から今日は弟の誕生日だからと聞いたときの敗北感はすさまじかった。平良は自分との再会よりも、あの地味男の誕生日を優先したのだ。 「清居くん、同級生なら同級生って言ってよ。人が悪いよ」 打ち上げでは小山にぼやかれた。 「すいません。小山さんがあんまり心配してたんでちょっとからかいたくなって」 傷ついている自分を認めたくなくて、にやにやと笑いながら答えた。 「勘弁してよー。ねえ、それより平良くんって高校時代どんなんだったの」 「どんなって」 「色々あるだろ。面倒見がいいとか頭がよかったとか友人が多かったとか」 「頭はよくねえだろ。あの大学いってんだから」 佐藤が横から茶々を入れ、「俺の弟までディスるな」と小山に頭をはたかれた。 「じゃあ頭はいいや。面倒見がいいとか友人が多かったとか、なにか美点は?」 「特にないですね」 噓はついていない。正直な事実に小山は顔をしかめた。 「彼氏とかいたのかな?」 「片思いのやつはいたみたいです」 俺だよ、俺、と心の中でつけたした。 「もちろん男だよな? 女だったら弟がかわいそうなんだけど」 小山が心配そうに身を乗り出してくる。 「男ですよ。聞いた話だと相当好きで追いかけ回してたみたいですね」 「……追いかけ?」 「そいつのあとつけたり、綺麗だ綺麗だっていっつもじーっと見てたり」 「ちょ、それなんかやば……あ、いや、じゃあ友達は? どんな友達がいたの?」 「いなかったんじゃないかな」 「え、それどういうこと。友達いないやつだったの?」 「うーん、まあ、そんな感じで」 「おいおいおいおーい」 小山は頭を抱えてテーブルに突っ伏した。 「つまりあの平良ってやつは、友達もいない、好きな人を追いかけ回して陰からじっと見てるストーカーみたいなやつってことか」 「いや、そこまでひどくもないけど……」 しかし小山は聞いちゃいない。どんどん妄想をふくらませて、どうしようどうしようと頭を抱えている。思い込みが激しい男だなとあきれつつ、もういいかと説明を放棄した。大まかには間違っていないし、なによりもう平良のことを口にするのは嫌だった。 あんなきもうざのことで一喜一憂して、今の自分はあきらかにおかしい。平良のせいだ。あいつの目を見ると調子がおかしくなる。やっぱりあいつは気持ち悪いやつだ。 ──もう、平良にはかかわらないでおこう。 なのに平良はまた舞台を観にやってきた。会いたいと思っていたときは電話番号まで変えて逃げ回っていたくせに、こっちが会いたくないと思ったら現れる。 話しかけてみる気になったのは、小山の弟の姿がなかったからだ。さりげなくカマをかけてみると、小山の弟は彼氏ではないと言う。一体どういうことなのか。真実が知りたくて、もうかかわりにならないでおこうと決めたのに打ち上げに誘ってしまった。 平良は嬉き々きとしてやってきたが、以前のことがあるので油断はしなかった。今までの腹いせに他の男と親しいところを見せつけ、ようやく話しかけてやる気になれたのだ。 カフェで色々と話をしたが、はっきりしない平良にいらだちは益々募った。平良は小山の弟を彼氏じゃないと言う。けれどいいやつなんだ、優しいんだと熱心にかばうようなことも言う。連絡なしに携帯を変えた理由にはだんまりを決め込む。なのに清居が稽古場に困っていると言うと、場所を提供できるかもと身を乗り出してくる。平良はあのころと同じように、全てを捧げるみたいに熱のある目でまた連絡先を渡してくる。もうわけがわからない。 店を出てから、これだけははっきりさせておきたいと、小山の弟とこの先どうするつもりなのかを聞いた。探りを入れているようでみっともないが、実際、自分は探りを入れていた。そして平良がはっきりと否定するのを聞きたかったのだ。 「わからない」 平良は否定しなかった。 さらに「なんでそんなこと気にするの?」とまで言った。 わかんねえのかよ──と喉のどまで出かかった。 つきあう可能性があるということは、好きという気持ちがあるということだ。そんなやつがいるなら、なぜわざわざ自分に会いにくるんだ。なぜ稽古場を提供するなんて言うんだ。小山の弟と自分を天てん秤びんにかけているのか。 「そいつと、俺と、どっちが好きなんだよ」 怒りに任せた一瞬後、とんでもない羞恥に襲われた。 なんだ、この無様な質問は。しかし後の祭りだ。こうなったらもう清居に決まってるだろうと言ってもらわねば救われない。言えよ。言え。そしたらもう一度キスしてやる。そしたらもう一度やり直して──。 「は?」 ぽかんと口を開け、平良は馬鹿面をさらした。 思いもよらぬことを問われたという顔をしていた。 ──なに言ってるの? 俺と小山のことに清居は関係ないよ? と言われた気がして、耳まで真っ赤になった。自分がひどい勘違い野郎に思えて、平良の脛を蹴っ飛ばして逃げるのが精いっぱいだった。 大おお股またで駅へ向かいながら、違う、絶対違うと、湧き上がる気持ちを否定し続けた。自分がこんなおかしなことになっているのは、単に下僕だった男の反乱が許せないだけだ。 これは恋に似ているけど恋じゃない。あんなきもうざを自分が好きだなんて、しかも冴えない男相手に二股をかけられているなんて、これ以上の屈辱はないと思えた。
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№9 ☆☆☆==|491047a1于2021-12-05 21:02:37留言☆☆☆
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「セリフ増えるんですか?」 劇団の稽古のあと、主宰から新しい台本を渡された。元は他の役者のセリフだったが、その役者が喉にポリープを患ってしまった。年末に手術を決めたが、それまでできるだけ喉を酷使しないために、セリフを他の役者に割り振っているという。 「もうゲスト出演って言えないボリュームだけど、大丈夫か?」 「ん……、これくらいの量なら」 ぱらぱらと台本をめくっていく。 「あと、おまえのとこの事務所からギャラ請求されんのも怖いんだけど」 「そんときはいさぎよく払ってください」 「うちみたいな貧乏劇団にそんな金あるか。あ、ママさんたちだ」 コーラス部のおばさんがにぎやかに入ってきて、団員は慌てて荷物を片づけて市民教室を出た。駅のホームで電車を待っている間、ぱらぱらと台本をめくった。振り分けられたセリフに赤線が引いてある。さっきはああ言ったが、これは稽古を増やさないとやばい。 問題は場所だ。舞台は事務所を通していない活動なので、稽古場を押さえてもらえない。劇団の稽古場は安いところを時間単位で借りている。マンションは無理だし、河原や公園も無人ではなく、以前通報されかけた。最後の手段はカラオケボックスか。 ──準備しておくから、必要になったらいつでも連絡して。 平良の言葉が胸をよぎったが、ふんと鼻で蹴散らしてやった。叔父の家を借りてやると言っていたが、夜明けの駅前で平良と別れて一ヶ月、電話はかかってこない。自分からは絶対にかけたくない。一度連絡を絶たれた身として、再び自分からかけるのは癪しやくにさわる。 というか、平良には金輪際かかわらないと決めたのだ。なのに毎日毎日、今日も連絡がなかったと落胆している自分がいる。日常のふとしたときに平良のことを思い出す。 今ごろ、小山の弟とうまくやっているんだろうか。 あんな地味な男を、自分を見ていたような熱っぽい目で見ているんだろうか。 考えなくてもいいことを考えてしまい、勝手に腹を立てている。馬鹿だ。平良にこだわるのはもうやめろ。そうスパッと思考を切り替えられるときは調子のいい日、切り替えられずにだらだら考え込むときは調子が悪い日。気づくとそんな物差しができていた。 『はい、もしもし』 電車を待っていると、ホームで隣に立っていた若い女が携帯に出た。 『仕事中でしょう。どうしたの?』 彼氏からだろうか。甘い声を出している。 『え、電話? 私かけてないよ。……あ、もしかしてさっきキミちゃんにかけたとき、間違えて番号押したかもしれない。急いでたから』 若い女の隣で、清居は目を見開いた。 ──その手があったか……っ。 かけ間違えたフリをすればいいのだ。折り返しがあればそれでいい。なければ今度こそさっぱりできる。清居は携帯を取り出し、平良の電話番号を呼び出した。ちょうど電車がきてしまい、集中したかったので乗車列から抜け出してホームのベンチに座った。 かかったと同時に切らねばならない。ぐずぐずして平良が出てしまったら、清居のほうから電話をしたことになってしまう。これはあくまで間違い電話なのだ。平良の番号を呼び出すだけで胸がどきどきしている。たかが平良相手に腹立たしい。 恐る恐る平良の番号にかけ、電子音が鳴った瞬間切った。折り返しはあるだろうか。なかったらもういいと思える。なのにひどく傷つくような予感もしている。 そのとき、手の中の携帯が震えてびくりとした。 画面には平良の名が浮かんでいる。三十秒も経たないうちに折り返しがきた。安堵と一緒に単純な喜びが生まれる。でもすぐには出ず、少しもったいぶってから出た。 「もしもし」 いい感じにぶっきらぼうな声が出せた。 『き、き、清居? 俺、ああ、えっと平良……です。平良一かず成なり』 ──知ってるっつうの。 つっかえながらフルネームを名乗る男が無様で、逆にこちらは余裕が生まれた。 「ああ、久しぶり。なんか用?」 『さっき携帯に電話くれただろう。なんだったかなと思って』 「……電話? したっけ。ああ、友達とかけ間違えたのかな」 『あ、そうなんだ』 平良の声に落胆がまじった。 「別におまえに用はなかったんだけど」 『……そっか。うん、でも全然いい。声が聞けてすごく嬉しい』 ストレートな言葉に、じわじわと喜びと優越感が生まれた。最近ずっとぺちゃんこだった鼻がみるみる長く高く伸びていくようだ。 『一ヶ月ぶりくらいかな。清居は元気?』 「まあまあだな。おまえは?」 『元気だよ。引っ越しとかで最近バタバタしてたけど』 「引っ越し?」 『前に言ってた叔父さんの家に』 「えっ?」 『清居からいつ連絡がきてもいいように、あの日すぐ叔母さんに連絡したんだ。家具とかそのままだからなんでもそろってるし、広すぎてちょっとさびしいけど』 ちょっと待て。待て。待て。そこまでやっているなら、なぜさっさと連絡をしてこない。わけがわからなくて呆然としていると、平良が言った。 『いつでも使えるから、清居の気が向いたときに──』 「場所どこだよ」 思わず問うと、平良が驚きながら住所を言った。そんなんじゃわからないと言うと、最寄り駅を口にしたので、今から行くから迎えにこいと勢いのまま命令した。
たかが一度の電話で、停滞していたものが動き出した。それは清居が考えていた展開を越えていて、嬉しいのにどこか油断ならないものも感じる。やはり平良はつかめない。 「清居!」 改札を抜けると、平良が立っていた。チェックのシャツにチノパンというださい学生御用達みたいな恰好で、目を輝かせ、頰を紅潮させて直立不動している。 「よう」 一言だけの返しに、平良は馬鹿みたいに嬉しそうな顔をした。犬なら尻尾をぶんぶん振り回して嬉ションをしそうな勢いで、一瞬、この一ヶ月の焦燥と怒りを忘れた。 「十分くらい歩くんだけどいい?」 「よくないって言ったらどうすんだよ」 平良はまばたきを繰り返した。 「じゃあ、タクシーで行こう。俺が払う。えっと向こうにタクシー乗り場が──」 言いながらターミナルを振り返る。今にもタクシー乗り場に走っていきそうな勢いに、慌てて冗談だと言った。平良は「冗談?」と首をかしげた。 「本気にすんな」 そう言うと、じわっと平良の顔がほどけていく。 「そっかあ、冗談かあ」 恥ずかしそうに首筋をかいている。からかわれても喜ぶ気持ち悪いやつだ。 「じゃあ、歩きでいい?」 「それしかないだろ。それともお前が俺を担ぐのか」 「清居がそうしてほしいなら、俺はがんばるよ」 真面目に答えられ、どうしていいかわからなくなった。こんなやつの言うことなんてまともに受け取るな。こいつの一途は見せかけだ。こいつは油断ならない男だ。なのに……嬉しいと感じる自分に鳥肌が立つ。気持ち悪さのあまり、自分ごと罵った。 「きもすぎる」 罵られたというのに、平良はやっぱりにこにこしていた。 駅から十分と言われたが、七、八分で家についた。椿つばきの生垣で囲われていて、建売とは違う広い庭付きの一軒家だ。玄関も廊下もゆったりと作ってある。このあたりは初めてきたが、駅からの道のりで品のいい住宅街であることが伝わってきた。 「どうかな。稽古できそう?」 「十分だ」 広いリビングを見回しながら答えると、平良の顔が安堵にゆるんだ。奥にはピアノ室もあるのだと平良が廊下を進んでいく。 「ここだよ。ピアノは嫁入り道具にお姉さんが持っていってないんだけど」 「いいよ。そのほうが広く使えるし」 防音パネルの壁をなで、清居はすうっと大きく息を吸い込んだ。あーっと発声をすると、平良がうわっとあとずさった。その様子がおかしかった。 「びびり。図体でかいくせに」 からかうように笑うと、平良はぽかんとした。 「なんだよ」 「ううん、会ってから初めて笑ってくれたから」 まただ。手放しに嬉しそうな表情。自分は平良の唯一無二の相手だとおかしな錯覚を起こさせる笑顔。最初は嬉しかったが、だんだんいらっとしてきた。そんな顔をするのに、平良の行動には一貫性がない。痛い勘違いをして恥をかくのはもうまっぴらだった。 「おまえ、この家、本当に俺のために叔母さんに頼んでくれたの?」 「うん。でも気は遣わないで。俺が勝手にやっただけだから」 「別に遣わないし」 そっけなく言い捨てると、平良がうんとうなずいた。 「そうだね、ごめん」 なんでそこで謝るんだ。それじゃあこっちが意地悪みたいじゃないか。 「俺のためって言うけど、俺が電話しなきゃ、おまえはここでひとり暮らしするつもりだったんだろう。渋しぶ谷やにもすぐ出られるし、すげえ便利なとこだよな」 自分のためもあるんだろうと暗に含んでやったのだが、 「俺、渋谷とか行かないし」 「…………」 説得力のありすぎる答えだった。けれど、そう簡単に納得してたまるか。 「俺のためって言うなら、なんで連絡してこなかったんだよ」 問うと、平良は言葉を詰まらせ、ほらみろと言いたくなった。 「本当は俺が電話したの迷惑だったんじゃないのか」 「それは絶対ない」 平良は珍しく声を張り、しかしすぐにうつむいた。 「電話は……したかった。でも俺からはできなかった」 「なんでだよ。番号交換しただろう」 「最後に会ったとき、清居、すごく怒ってたし」 |
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№10 ☆☆☆==|491047a1于2021-12-05 21:02:53留言☆☆☆
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あれは小山の先走りが大部分だったけれど、自分も否定しなかった。いや、最後にちょろっと否定したが、大まかなところは流してしまった。 「いいんだ。俺はその通りの人間だし。清居は本当のことを言っただけだ。陰口だとも思ってない。清居は高校のときからちゃんと『きもい』『うざい』って俺に言ってたし」 清居は黙り込んだ。過去の自分が今の自分の首をしめる。 「ただでさえそう思われてるのに、家を用意したからなんて、気持ち悪いを通りこして警察に通報されたらどうしようと思ったんだ。俺はいいけど清居に怖い思いさせるのは嫌だし、でももし清居から電話があったときのために用意だけはしておこうと思って……」 平良はぼそぼそとうつむいて話し、清居はひどくバツが悪くなった。こうして理由を説明されると、平良から連絡がなかったのは自業自得だと思えてきた。 平良は主人に叱しかられて、尻尾をだらんと下げている犬みたいにうなだれている。自分が平良をいじめているようで、罪悪感と同じ量の理不尽な思いが湧き上がった。 確かに自分は平良に対して、言葉や態度が必要以上にきつくなるときがある。でもだからといって、そんな風に一方的に傷ついてますという態度に出られると、それはちょっと違うだろうと言いたくなる。こっちが完全強者なら、なぜ自分はこんなにぐるぐるしているんだ。どうして平良の電話を待って、毎日、毎日、携帯を見て落胆していたんだ。 「俺ばっか悪いみたいに言うなよ」 ぼそりとつぶやいた。またみっともないモードに入ろうとしている。だめだ。やめろ。もうひとりの自分が必死に止める。でも胸に渦巻く理不尽さを我慢できない。 「先に連絡切ったのはおまえだろう」 「え?」 「なんも言わずに携帯のアドレスも番号も変えて、そういうのって普通に考えたら『こいつとはもう縁が切れてもいい』って思うときにすることだろう」 「ちょ、ちょっと待って、それは清居が──」 そのとき玄関でチャイムが鳴った。平良が振り返る。ちょっと待ってて、すぐ戻るからと慌てて部屋を出ていった。ひとり取り残され、清居は両手で顔を覆ってしゃがみこんだ。 ──また、やっちまった。 顔が熱い。手に伝わる体温がどんどん上がっていく。あれじゃあ、ふられた側の恨み言じゃないか。恥ずかしい。やっぱりくるんじゃなかった。もう帰りたい。 「お友達がきてるの?」 女の声が聞こえてきて、どきりとした。もしや小山の弟だけでなく女にも手を出しているのか。そっと廊下から顔を出すと、玄関には母親らしき年配の女性がいた。 「今、大事な話してるから」 「はいはい、わかりました。でもほら、インスタントばっかり食べてるんじゃないかと思って色々作ってきたの。これだけ冷蔵庫にしまったらすぐ帰るわ。あら、こんにちは」 平良の母親がこちらを見る。しまったと思ったがもう引っ込めない。部屋から出て、お邪魔してますと頭をさげると、平良の母親はとても嬉しそうな顔をした。 「こんにちは、大学のお友達?」 「あ、いえ、高校のときの」 友達とは言えないので曖あい昧まいにぼかすと、母親は驚いた顔をし、「まあまあ、そうなの。昔からのお友達なのね」とさっきよりもすごい笑顔を作った。 「せっかく遊びにきてくれてるのに、邪魔してごめんなさいね。おばさんすぐ帰るから。あ、ご飯色々作ってきたから、よかったらあとでカズくんと食べてね。エビフライもあるのよ。あと野菜食べてないだろうから煮物とかおひたしも、夕方だしお腹空いたでしょう」 「母さん、もういいから早く帰って」 平良がやや邪険な言い方をする。そういう平良を初めて見たのでなんだか新鮮だった。家では平良も普通なのだ。平良の母親ははいはいと紙袋を手に台所へ入っていく。 「ごめん、すぐに帰ると思うから」 「別にいいけど」 「カズくーん、ふたり分、すぐ食べられるようにしておく?」 声が割って入ってくる。平良がうかがうようにこちらを見る。 「あの、よかったら食べていって」 「……じゃあ、食う」 平良はぱっと顔を輝かせ、「そうしといてー」と台所に向かって声を張った。こんな大きな声も初めて聞いた。母親がいると思うとさっきの話の続きもできず、リビングのソファで手持ちぶさたに待っていると、ほどなく母親が顔を出した。 「カズくん、じゃあお母さん帰るわね」 うんと平良が立ったので、清居も立ち上がった。母親がこちらにほほえみかける。 「邪魔してごめんなさいね。急にひとり暮らしなんて心配だったけれど、おうちにまできてくれる昔からのお友達がいるって知って安心できたわ。これからもよろしくね」 深々と頭をさげられ、清居はうまく返事ができなかった。自分は平良をパシリに使っていたのだ。よろしくお願いされるようなことはなにもしていない。身内と話すことによって、過去の自分がしてきたことへの罪悪感を喚起された。 「じゃあ、ご飯食べようか」 平良の母親が帰ったあと、促されるまま台所へ行くと、ダイニングテーブルにふたり分の食事が用意されていた。コロッケ、野菜がたくさん入ったポテトサラダ、きのこのおひたし。スープもあるよと平良がレンジの鍋に火をつけた。 「じゃ、いただきます」 平良と向かい合って手を合わせた。 「あ、なんだこれ」 コロッケを一口食べ、清居は思わずつぶやいた。コロッケと言えばジャガイモで、ポテトサラダとかぶってんじゃんと思っていたが、細かくたたいたエビだけのコロッケでめちゃくちゃうまい。揚げてから時間が経っているのにサクッとしている。 「料理好きだから、色々工夫するのが楽しいみたいだよ」 平良の母親は上品で優しそうな人だった。あの母親といい、凝った料理といい、海外赴任の叔父といい、プライベートの平良はおぼっちゃんであることがうかがえた。 「これハンバーガーにしてもうまいだろうな。エビバーガー」
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№11 ☆☆☆==|491047a1于2021-12-05 21:30:32留言☆☆☆
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